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私の臨床の原点は、「自分にしてもらいたいように」、そして「プロでありたい」ということです。何とかして患者さんのお役に立ちたいと願って毎日の診療をやっています。国民皆保険制度下の臨床の理想と現実の狭間の中で日々格闘しています。少々長いですが、是非お読み頂いた上で御来院下さい。

 

●日本の健康保険制度に疑問を持ったこと

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欧米の先進国に比べて中高年者の残存歯数が悲しくなる程少ないという現状があります。壮年期を向かえた時、60%以上の方が総入れ歯か、それに近い状態で食事をされているのは欧米に比べても異常で、平均寿命は世界一でも、はたしてこのような姿が豊かな先進国と言えるでしょうか。日本人の口の中の健康をお守りする立場の人間として心苦しく思っています。

 

●意外な事にアメリカ人と比較しても、日本人はアメリカ人より回数を多くブラッシングしており、砂糖の消費量も少ないというデータがあります。
 

 

●国によって、健康に対する考え方も違うと言われています。

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アメリカにもメディケイドなどの医療扶助制度があり、ヨーロッパや日本のような公的健康保険制度は一応ありますが低所得者層に対するセーフティネットの意味あいが強く一般的には自己責任思想が発達しており、基本的に自分の健康は、自分で守るという考え方がスタンダードのようです。従って根の治療もつめものかぶせものも全て自己負担です。そのような国でも、日本と較べても3倍以上の歯が残っています。

 

●特に日本人の歯が欧米人と較べてもろいとか、構造的に弱いという報告はありません。もし、そのような理由があれば長寿世界一にはなれないはずです。

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ヨーロッパの国々でも、国民の健康に対する社会保障制度の考え方は様々で、より手厚く保障している国から、社会保障はできるだけ小さく個々人の責任に重きをおいている国まで色々です。
たとえば、イギリスのように妊産婦や失業中の学生など特定の人達には無償で治療を提供したり、ニュージーランドのように未成年者には予防を含めた厚い医療保険制度を持つ一方で、成人には自己責任を大きくするというような国もあります。

 

●日本の健康保険制度はドイツの公的保険制度をまねて昭和36年に作られました。日本国民が等しく治療を受けられる崇高な考えに基づいています。

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イギリスやスウェーデン、フランス、ドイツなど全国民を対象にした国民健康サービスはありますが、日本のような国民皆保険制度というものは存在しません。ドイツでは約10%がプライベートな健康保険に加入しており、公的保険制度には90%の人が加入しています。フランスの公的保険への加入率は74%です。
ドイツは1978年まで、全ての治療が保険で給付されていましたが、他の予防に重きをおくヨーロッパの先進国に比べて治療を主体とする保険制度のため医療費の負担が大きくその効果も充分とは言えない状況になっていました。
そのため、幾度に渡る保険制度の改正の後、1997年には加療を必要としない人に対するボーナス制度や予防への取り組みを含め、大きな医療改革を行いました。
現在、18歳以下の人達は、基本的に保存治療は保険でカバーされていますが、歯をつめたり冠をかぶせたりは全て自己負担になっています。それ以上の年齢の人達はつめ物やかぶせ物の治療を受ける時、治療費の50%が自己負担になっています。

●日本の健康保険制度は、日本国民が等しく同じ治療を比較的安価に受けることができるようにと配慮されています。 下へ  

このような保険制度は、他のどの国にもなく、すばらしい精神だとほこりに思っていますが、はたしてどのくらい日本人の歯の健康に貢献しているのでしょうか。
日本の制度の特徴は、出来高払い制度と言われるごとく疾患に対する治療を主体とする制度で予防や治療効果を問われることなく、治療として何をやったか、治療を何回やったかによって診療報酬が決まる仕組みになっています。
従って、治療の内容や質は一切問われませんので、手当たり次第早期発見早期治療で数を多く治療した方が収入が上がる仕組みになっています。一方で、まじめに良心的に治療に取り組んでいる多くの医療機関は報われないという矛盾が生じています。

 
●さらに日本の保険制度は完全な制限治療を特徴としていますが何を根拠に、何時の治療を水準としているのかは非常にあいまいです。 下へ

私は20年以上、歯科医療に携わっていますが、20年前とほとんど何も変わりはありません。患者さんの多岐にわたるニーズに応えるために多くの研究者らの地道な努力によって、治療技術は進歩をとげています。確かに、それぞれの処置に対する治療費は物価にスライドさせて高くなっていますが、その給付内容は20年昔とひとつも変わりがありません。

 
●ドイツでは日本の保険で給付されている合金(金属のまぜもの)いわゆる銀歯は、認められておらず、日本では自費扱いのゴールドかセラミックに限られています。 下へ

フランスではセラミック治療を受ける場合、患者さんの加入している疾患金庫へ事前申請をし、認可を受けた後に治療を受けるシステムになっています。生体親和性や精度に関しこれらフランスやドイツなどで給付されている材料あるいは治療法が良いことは、多くの歯科医の認めるところだと思います。

 
●日本の歯科治療が安価におさえられているのは患者さんにとって一面結構なことですが、はたしてそうでしょうか。 下へ

アメリカの治療費と比較してみても、神経の保護処置が約1/6、レジンのつめ物が1/6、根の治療が1/8〜1/6、金属のつめ物1/14、金属のかぶせもの1/10、スウェーデンと比較するとレジンのつめ物が1/5、根の治療が1/8〜1/6、金属のつめ物1/8〜1/7、金属のかぶせもの1/7〜1/4、ドイツと比較すると根の治療が1/9〜1/5、金属のかぶせもの1/22〜1/12、フランスと比較すると、根の治療が1/6〜1/3等々、に低く設定されています。

 
●日本では1日25人以上の患者さんを治療しないと採算が取れないという調査もあります。 下へ

欧米の先進国の歯科医が1日10人ほどの患者さんを丁寧に治療しているのと事情が違うのです。
日本の根の治療の再発率、すなわち再根治率がアメリカの再根治率の4倍ということは、どう考えればよいのでしょうか。
私は一般医であり、歯内療法専門医ではありませんが次のような理由であると考えています。
@根の治療を時間をかけて丁寧にやっていない。
A精度の良くないつめ物、かぶせ物をしているために雨もりがし、再感染、再発している。
B咬み合わせの調整がきちんとできていない。

さらに治療に来られる患者さんの約8割が再治療であるというデータと、もし日本の治療技術や知識が欧米の先進国にくらべておとっているのではなく、患者さんがブラッシングを欧米人よりサボっているわけでないとしたら、治療単価が低いために、充分な治療時間を取れずきちんとした根の治療やつめ物、かぶせ物ができていないこと以外に原因が考えられません。正直言って、20年前の私はたぶん、そんな治療をしていたと思います。すぐに自覚症状を伴なう再発が起こらなければ、患者さんはどんな治療を受けたのかわからないと思いますし、そのような治療がどれ程、当然患者さんが得てしかるべき健康をそこなってきたか、歯科医の1人として反省しています。

 
●このようなことをくり返していても、日本人の入れ歯人口は減らないと思います。平均寿命は延びても食事のたびに不自由するような状態を健康な姿と言えるでしょうか。 下へ

保険制度における医療の質と効果を根本的に考えなおさなければ10年後、20年後も、今とそう変わらないような気がします。実際30年後も8020到達は無理であるという統計学者もいます。
患者さん一人一人の健康に対する自己管理意識と、積極的な治療参加は言うに及ばず、保険制度も予防を中心とした医療にシフトさせることと、きちんとした根の治療やつめ物、かぶせ物に必要で充分な時間が取れるように治療単価をせめて、欧米並みにすることが必要と考えます。それが日本の歯科医療の質と効果を充実させるひとつの方法だと思います。

 
●医療は、人の健康を維持、増進する根幹ですから、国民の福祉の面からもできるだけ広い範囲でカバーされるべきと考えています。しかし現行の制度は、いかにもこそく的で、浅いと言わざるをえません。 下へ

一方で極端かもしれませんが、又、そういう方向性もあるやに聞いておりますが、つめ物、かぶせ物を保険の給付からはずすという考えもあるそうです。その方が、乱診、乱療もへり、結果、日本国民の口の中は、医療人としての意識の低い歯科医によって、蝕まれていくのを防ぐことができるかもしれません。

 
●100%の国民が平等に同じ治療を受けることができることはすばらしいことですが、その内容が他の先進国のスタンダードに比べて、あまり誇ることができないものであれば財政的にも限界があることですから、できる事とできない事をきちんと整理し、国民に明らかにすべきです。 下へ

その上で少なくとも小児歯科と保存治療に重点をおいた保険制度をすみやかに充実されるべきだと考えています。当然機能回復の観点からも補綴(つめもの、かぶせもの治療)も、必要不可欠ですが、たとえばイギリスのように、特定の人には給付せざるを得ないでしょうが、補綴部分は健康保険で治療するのか、プライベート保険に加入するのか又は自己責任で治療費を負担するのかの選択を国民にまかせるというのはどうでしょうか。今の制度では欧米並みの先進的な治療を受けようとすれば、日本では自費扱いとなり、加入している健康保険が使えないという矛盾も出てきます。
当然プライベート保険利用者や自己負担を望む人には、健康保険料を引き下げるとかの手当てなどが必要だと思います。

 
●歯科は内科などと違い、1日何十人も患者さんを診れるような診療科ではありません。お話しと薬だけでは治らないのです。お薬を出してしばらく様子をみましょう、という訳にはいかないのです。 下へ

野戦病院でもあるまいし、外科医が1日に何十人もの手術をするでしょうか。
歯科は治療のほとんどが手仕事であり、観血的処置を伴う治療がとても多く、百分の数ミリの精度を要求される治療ばかりです。ミリではなく、ミクロンの世界なのです。
再発を可及的に低くおさえるためには、きちんと時間をとって丁寧に診断し、予后を予測しながら正確かつ的確に治療を行う必要があります。
むし歯や歯周病は老化現象ではなく、れっきとした感染症であり、進行性の病気です。さらに多くの場合単一の原因というよりむしろ多因子性の原因により疾患が発生しています。したがって、全顎的あるいは抱括的で高度な診断や治療知識、技術が必要とされます。
このような観点からも、健康保険制度の改革のみならず、歯科医の研修制度、特に新卒歯科医の一定期間の研修を義務づけることが必要と思われます。さらには高度先進医療に対応できるような専門医制度が育っていく環境を作ることなども必要と思われます。

 
● うちは、アメリカやイギリス、フランス、ベルギー、ノルウェー、ロシア、中国など多くの外国の方も来られていますが、最近確信したことがあります。 下へ

10年以上、長期間日本に滞在されている外国の方の口の中がなんと、日本的になっているではありませんか。
すなわち、レジンや銀歯のオンパレード、しかも再発が多発しているのです。日本の保険医療にいつのまにかどっぷりとつかってしまっています。
むしろ、日本での治療をまぬがれた彼らの母国で昔つめられたアマルガムやゴールドのつめ物の方がきちんと機能しているのです。彼らの母国で治療したデンティストの顔を思い浮かべながら、同じ歯科医として、身の縮む思いがします。口の中の健康も日本人なみになって、へたをすると大変申し訳ないことになっているのではないかと考えたりします。
もちろん、国名は挙げられませんが、非常にまずい治療もあり、まだ日本で治療できてよかったねと言わざるを得ない国もあるようです。

 
●日本の歯科医療の実情は、このようなことになっています。 下へ

保険制度の根本的な見なおしや、改革が当分行われないのであれば、私は御縁があって、来院して下さる患者さんに対して、制度にとらわれることなく、最善の治療を尽くして、少しでも多くの歯が健康で長く機能するようがんばりたいと思います。
日本は自由な国ですから、いろんな患者さんのニーズがあり、又、それに応えるいろんな医療があって、しかるべきだと思います。
しかし、欠陥がある制度というとてつもなく大きな落とし穴に皆が落ち込んでいて、そしてそれに多くの人が気が付いておらず、思いもよらない結果になっているとすれば、とても恐ろしいことだと思います。本来はこんなはずではなかったはずです。行政も医療人の多くも患者さんに喜んでもらいたかったはずです。私は1人の医療人として、患者として医療の原点ともいえる機能の回復と健康の維持が長期的に達成されてこそ壮老年期になった時、満足のいく豊かな食生活を送れるのではないかと信じています。

 
●最後に。  

来院された患者さんには、入れ歯にならないようにするためにはどうすればよいか、残されたご自身の歯をいかに回復させ長く残すことができるかという観的で、治療方針をご提示いたします。健康保険の給付、範囲からはずれる場合もあるかと存じますが、最終的には患者さんご自身の問題ですから、ご自分で納得された上でご判断して頂ければ幸いに思います。
当然患者さんのご理解ご納得が得られれば、現実的な落しどころというのもあるかもしれません。
ご遠慮なさらずに、ざっくばらんにご相談下さい。
何らかの形で、少しでもお力になれればと考えております。成功への道はそんなに広くもなく、たくさんある訳ではないように考えておりますが、必ず喜んでいただけるよう道を探し当て、ご自分の歯で一生食事ができるよう力を尽くしたいと思います。

 
赤坂通り 保坂歯科クリニック
院長 保坂尚紀
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